1. 恐竜 - 見ていて飽きない
家に帰ったら恐竜がいたので、そいつを連れてきたであろう友人にまずは状況を尋ねてみる。
僕の家の前に座り込んでいるセノは、膝の上にちょこんと収まるくらいの小さな恐竜を優しく撫でていた。彼の膝に抱えられたその恐竜はぐっすり眠っているようで、短い尾を時折揺らす以外は、穏やかに目を閉じて丸まっている。
「君、どうしてそう厄介なものを拾うたびに、僕のところに持ち込むのさ」
「そんな言い方をするな、ティナリ。こいつに聞こえてしまうだろう」
セノが僕の物言いを咎めるけれど、問題を持ち込んできた当の本人に言われるのはなんとも複雑な気分だった。
そりゃ僕だってコレイの目の前では決してこんな風に言ったりしないけれど、それでもセノがコレイを連れてきた当時は、とんでもない厄介事を持ち込んできたものだと思ったのも事実だ。けれども、もし幼い人間をひとり連れて来られるのと、見知らぬ恐竜を連れて来られるの、どちらの方が厄介かと問われたなら、僕は答えに迷うだろう。迷っている。……迷って、いるのだ。現在形で。
「……まず、状況を説明してくれないかな。セノ」
「俺にもよくわからない。家に帰ったら恐竜がいたんだ」
「え。そいつ、君の家にいたの?」
「そうだ。けれど、俺一人ではどうしていいかわからなくて、ティナリに訊こうと思って連れてきた」
「まあ、さすがに外に放っておくわけにもいかないか……」
恐竜。テイワットにおいてかつて存在したと言われる生物。先日モンドで見たような空を飛ぶ龍、いわゆるドラゴンとはまた異なる種であり、陸地を駆ける四肢動物だったと聞いた記憶がある――そう、ちょうどセノの膝で眠るそいつのように。
というか、とっくの昔に絶滅した生物だと思っていたけれど。……そもそもの話。
「はぁ、わかったよ。……いや、さっぱりわからないけど、とりあえず今起きていることは了解した」
「すまない、ティナリ。明日は俺もお前も、久々の休暇だったはずだ。俺がこの恐竜、つまり『ダイナソー』を連れてきたことによって『台無し』にしてしまったな。わかるか。つまりこれは……」
「待って、それ以上は勘弁してくれ……!」
思わず頭を抱えて天を仰ぐ。意味不明な状況に変わりはないのに、更にセノのジョークまで捌く余裕はない!
見上げた空はいつの間にか橙色に染まっている。もうすぐ日が暮れるだろう。このまま軒先で話を続けても埒が明かないと、仕方なくセノと恐竜を家に招き入れる。目覚める様子もない小さな恐竜を、セノが割れ物を扱うみたいな手で持ち上げて、部屋の奥にあるベッド(僕のベッドだ!)に寝かせる。眠るそいつをじっと観察する目がきらきらと輝いていて、そういえば彼は龍が好きだったな、と思い出す。もしかしてセノのやつ、この恐竜にもう愛着が沸いてしまったんじゃないか?
僕のベッドですやすやと眠る恐竜と、それを興味深そうに見つめるセノの後ろ姿。大きなため息が出る。
ああ――今夜は、しばらく眠れそうにない。