ポッキーゲーム(仮題)
今日の手土産だと告げて差し出した紙の小箱を、ティナリは怪訝そうに見つめていた。
「今とても話題になっている棒菓子だ。知らないか?」
「噂には聞いてる。でも、どうしてわざわざ僕に?」
「これを用いたゲームがあると聞いた。やってみないか、ティナリ」
「……ふうん。知ってて持ってきたんだ」
じゃあ遠慮なく、とティナリが小箱を開封する。シティからティナリの家までは少々距離があったが、繊細な棒菓子は折れることなく持ち運べたようだった。ティナリが菓子を一本つまんで軽く眺め、口に運ぶ。
「それで、君は僕とゲームがしたいの? それともキスの方?」
菓子を口にくわえたティナリが不敵に笑う。そのかわいらしい顔が、けれどもまるで獲物に狙いを定めた狩人の目で迫ってきて、柄にもなくごくりと喉が鳴った。
このゲームで戦うティナリは、七聖召喚の時よりもずっと手強そうだと思った。
◆
さく、さく、さく。
菓子を囓った先で、たわむれのように唇が触れあう。
「うまくできた」
「僕も負けてられないな」
さく、さく、さく。
じれったい距離でかすかに触れて、すぐに離れていく。
「うん。僕たち、結構上手いのかもね」
「もう一回だ」
さく、さく、さく。
いつもなら深く絡めあっている頃合いだ。もどかしくて、身体の奥で熱がくすぶる。
「どうしたの、もう終わり?」
「負けるつもりはないさ」
さく、さく、さく。
さく、さく、さく。
何度も繰り返したけれど、二人の間の棒菓子は折れることはなかった。勝ちも負けもなく、そのうち言葉もなくなって、淡々と菓子を喰らいながら言い訳めいたキスを繰り返すばかりの時間が続く。
「……これで最後だ」
さく、さく、さく。
最後の一本も、互いの口の中に平等に消えていった。
この勝負は引き分けだな――と終わりを告げようとした瞬間、触れた唇は離れずにぐっと押し付けられる。油断した隙に後頭部に回っていた手に引き寄せられて、それは逃がさないという意思表示。驚いている間に、与えられる深い口付けに呼吸まで奪いつくされる。ぷは、と酸素を求めて息が上がったセノを見て、ティナリが笑う。
「勝敗は決まらなかったけど、なかなか楽しめたね。ごちそうさま」
そう言ってぺろりと口元を舐めるティナリに、負けた、と思わされたのが悔しかった。